大阪地方裁判所 平成9年(ワ)313号 判決 1998年6月29日
原告
白石博之
被告
船木裕隆
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金三八一万六九七七円及びこれに対する平成元年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金七二四四万二二五五円及びこれに対する平成元年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、交通事故により損害を受けたと主張し、被告船木裕隆に対し民法七〇九条に基づき、被告株式会社日本電商に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)(争いがない。)
(一) 発生日時 平成元年九月一一日午後七時一五分ころ
(二) 場所 大阪府堺市豊田一二二八の交差点内
(三) 事故車両 原動機付き自転車(堺市R二八九五)(以下「原告車両」という。)
運転者 原告
(四) 事故車両 普通貨物自動車(なにわ四〇あ八七二〇)(以下「被告車両」という。)
運転者 被告船木裕隆
保有者 被告株式会社日本電商
2 原告が負った傷害(甲二の一ないし一三)
原告は、本件事故により、左腕神経損傷、右脛腓骨開放性骨折、左顔面挫滅切創、左耳介切創などの傷害を負った。
3 原告の症状固定(争いがない。)と後遺障害(甲四)
原告は、平成七年三月二二日、症状固定したが、左上肢不全麻痺、肩機能全廃、肘の屈曲力は五分の三、伸展力はゼロ、左手首や手指機能は実用的、姿勢異常、高音発声困難、側わん症などの症状が残った。
原告は、自動車保険料率算定会調査事務所から、左肘神経麻痺による左肩関節の用廃が自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表八級六号に該当し、左腕神経麻痺による左肘関節の機能障害が同等級表一二級六号に該当し、右脛腓骨開放性骨折による右下肢の一センチメートル短縮が同等級表一三級九号に該当し、右脛腓骨骨折癒合による右足関節機能の障害が同等級表一二級七号に該当し、脊柱側わん症による脊柱に変形が残ったものが一一級七号に該当し、併合して同等級表六級に該当する旨の認定を受けた。
4 原告の損害(争いがない。)
(一) 治療費
(1) 原告が入院した期間(合計二八一日)は次のとおりである。
<1> 平成元年九月一一日から同月一八日まで(八日)泉北記念病院
<2> 同月一八日から平成二年一月六日まで(一一一日)近畿大学医学部附属病院
<3> 同月六日から同年二月一日まで(二七日)医療法人幸会喜多病院
<4> 同日から平成二年五月一六日まで(一〇五日)大阪労災病院
<5> 平成三年七月三一日から同年八月三一日まで(三二日)大阪労災病院
(2) 原告が通院した期間(実通院日数一八五日)は次のとおりである。
<1> 平成二年五月一七日から平成六年八月一九日まで(一五五六日間、実日数五四日)大阪労災病院
<2> 平成二年四月八日から同年六月一〇日まで(六四日間、実日数二日)木野雅夫整形外科
<3> 同年八月一五日から同月二〇日まで(六日間、実日数二日)近畿大学医学部附属病院
<4> 同年一二月二一日から平成三年二月一日まで(四三日間、実日数二日)大阪労災病院
<5> 平成二年六月一八日から平成四年四月一〇日まで(六六三日間、実日数三一日)植木病院
<6> 平成二年七月一三日から平成三年二月一日まで(二〇四日間、実日数二三日)医療法人大道会ボバース記念病院
<7> 同年七月二九日(実日数一日)医療法人恒昭会藍野花園病院
<8> 平成四年八月二四日から平成七年三月二二日まで(九四一日間、実日数九日)星ヶ丘厚生年金病院
(3) 原告が支払うべき治療費は合計六〇七万三八八五円である。
(二) 通院交通費
原告が支払った通院交通費は、一一七万二四五八円である。
(三) 物損
原告が受けた物的損害は、一九万七六八〇円である。
(四) 損害のてん補
原告は、自賠責保険から一一五四万円、任意保険から八七三万五九四三円の合計二〇二七万五九四三円の支払を受けた。
三 原告の主張
1 事故態様及び過失相殺
原告車両は、本件事故現場の交差点を右折する(西に曲がる)ために、交差点中央部分に停止したが、停止直前の徐行をしていたところ、対向車線を走行してきた被告車両が、原告車両の左ハンドル部分に衝突した。
つまり、被告車両がセンターラインをオーバーして原告車両に衝突したということができる。
2 損害
(一) 入院雑費 三六万五三〇〇円
一日一三〇〇円が相当である。
(二) 入院付添費 一五四万五五〇〇円
一日五五〇〇円が相当である。
(三) 通院付添費 五五万五〇〇〇円
一日三〇〇〇円が相当である。
(四) 父親の休業損害 二一万五六五六円
(五) 卒業遅延による損害 一一一四万五六〇〇円
原告は、本件事故当時高校二年生であったが、本件事故のため留年し、就労可能年数が少なくとも二年減少した。
(六) 後遺障害逸失利益 五二四四万七一一八円
原告は、本件事故により、六七パーセントの労働能力を、四三年間にわたり、喪失した。
(七) 入通院慰謝料 四〇〇万円
(八) 後遺障害慰謝料 一二〇〇万円
(九) 弁護士費用 三〇〇万円
四 被告らの主張
1 事故態様及び過失相殺
被告車両が本件事故現場の交差点を青信号に従い直進して通過しようとしたところ、原告車両が反対方向から進行し、右折しようとして、被告車両の進路上(道路の中心線から被告車両が進行していた側の領域)に進入したため、被告車両と原告車両が衝突した。
つまり、原告車両がセンターラインをオーバーして被告車両と衝突したということができる。
したがって、被告に過失はないし、あったとしても、その程度は軽微である。
2 逸失利益 三七三八万六三七八円
原告の後遺障害のうち、右下肢の短縮(等級表一三級九号)と姿勢異常、脊柱の障害(側わん症)(一一級七号)は、いわゆる変形障害であり、労働能力への顕著な影響は考えがたい。また、肩機能全廃(八級六号)、肘の屈曲力及び伸展力の障害(一二級六号)、右足関節部の機能障害(一二級七号)は機能障害であり、将来若干の回復が予想される。
したがって、原告は、症状固定時から五年間は労働能力を六七パーセント喪失し、その後一〇年間は五六パーセント喪失し、その後一〇年間は四五パーセント喪失し、その後就労可能期間終了まで三五パーセント喪失したというべきである。
五 中心的な争点
1 事故態様と過失相殺
2 労働能力喪失率と喪失期間
第三判断
一 事故態様と過失相殺について
1 証拠(甲一〇の一と二、一一、一二、検甲一ないし七、乙一、三、検乙二、被告の供述、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故は、別紙図面のとおりの交差点内で発生したが、その交差点は、片側一車線の南北道路(幅員は、約五・三ないし六・五メートル)と東西道路(幅員は、約六・五メートル)が交差し、信号機による交通整理がされている。(以下「本件交差点」という。)
(二) 南北道路は、アスファルト舗装された平坦な道路であり、本件交差点付近ではほとんど勾配がない。
(三) 南北道路は、本件交差点内には中央線を示すペイントなどの道路標示はない。交差点に入るまでは、中央線がある。
(四) 南北道路は、北から南に向かって進行すると、本件交差点付近から、東に緩く折れ曲がっている。
(五) したがって、南北道路を北から南に向かい、中央線の延長上を進行すると、本件交差点の中央付近では、南から北に向かう車線内に進入する。
(六) 原告車両は、南北道路を北から南に向かって進行し、本件交差点に進入し、本件交差点を右折しよう(西に曲がろう)とした。
原告車両は、右折するため、進行道路の中央線寄りに進行し、本件交差点の中央部分に進入し、停止したか、ほぼ徐行する状態になった。
(七) 被告車両は、南北道路を南から北に向かって進行し、本件交差点内に進入し、そのまま直進しようとした。
(八) 原告車両は前記(六)のとおり進行し、被告車両は前記(七)のとおり進行し、本件交差点内の中央部分で、被告車両が原告車両の左ハンドル部分に衝突した。
2 これらの事実によれば、原告車両が、右折のため、中央線寄りに進行し、本件交差点の中央部分において、被告車両の進行道路に進入したため、被告車両と衝突したと認めることが相当である。
これに対し、原告は、被告車両が原告車両の進行道路に進入した旨の主張をする。
しかし、これを裏付ける証拠がない。また、原告は本件事故時の記憶がなく、前記認定のとおり、南北道路を北から南に向かい、中央線寄りに本件交差点に入ると、対向車線内に進入してしまうが、原告車両がこれを避けるため、あえて東寄りに進行したことを窺わせる証拠もない。さらに、被告は、本件交差点に入る直前に対向車とすれ違った(から、反対車線に進入していない)旨の供述をし、原告車両の後続車の運転者もこれに沿う旨の陳述をしている(甲一一)。そうすると、被告車両が原告車両の進行道路に進入したと認めることはできない。
3 車両等の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない(道路交通法七〇条参照)から、被告は、本件交差点に入るときは、右折車と衝突しないような速度と方法で運転すべきであるにもかかわらず、右折しようとする車両(または右折のため待機している車両)がいることを予期しないで、また安全に通行できる速度と方法で運転しないで、そのまま漫然と運転を続けた過失があるというべきである。
これに対し、被告は、直進車両の運転者に対し要求される注意義務を尽くしたから、過失がない旨の主張をする。しかし、本件交差点の状況によれば、直進車両の運転者といえども、右折しようとしている車両または右折のため待機している車両を予期して、安全な速度と方法で運転すべきである。
4 また、前記認定事実によれば、車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両の進行妨害をしてはならない(道路交通法三七条参照)にもかかわらず、原告は、南北道路の中央線寄りに進行し、本件交差点に入り、被告車両の進行道路に進入して、被告車両の進行を妨害した過失があるというべきである。
5 そこで、被告と原告の過失割合を検討すると、原則として、直進車(自動車)と右折車(二輪車)の過失割合は、三〇対七〇とすることが相当である。
本件では、右折車(二輪車)が待機していたか、ほとんど徐行していたことを考慮し、原則を修正して、三五対六五とすることが相当である。
二 損害について
1 入院雑費
原告は、一日一三〇〇円が相当であると主張し、一日一三〇〇円が相当である。
したがって、一三〇〇円に入院日数二八一日を乗じた合計三六万五三〇〇円を損害と認めることが相当である。
2 入院付添費
原告は、一日五五〇〇円が相当であると主張するが、一日四五〇〇円が相当である。
したがって、四五〇〇円に入院日数二八一日を乗じた合計一二六万四五〇〇円を損害と認めることが相当である。
3 通院付添費
原告は、一日三〇〇〇円が相当であると主張するが、一日二五〇〇円が相当である。
したがって、二五〇〇円に実通院日数一八五日を乗じた合計四六万二五〇〇円を損害と認めることが相当である。
4 父親の休業損害
原告は、原告の父親が入院に付き添って欠勤したから、休業による損害がある旨の主張をする。しかし、これを認めるに足りる証拠がない。また、近親者の付き添いによる休業損害は入院付添費に含まれているということができる。
したがって、いずれにしても、原告の主張は認められない。
5 卒業遅延による損害
(一) 証拠(甲一五、一七、原告の供述、弁論の全趣旨)によれば、原告は、昭和四八年一月三〇日に生まれたこと、本件事故(平成元年九月一一日)当時、高等学校の二年生であったこと、本件事故のため留年し、高校の卒業が一年遅れたこと、平成四年三月に高等学校を卒業後、一浪し、平成五年四月に四年生大学に進学したこと、平成七年三月二二日に症状固定したこと、大学を卒業後、平成九年四月にヒロセ株式会社に入社したこと、ヒロセ株式会社では、製図などの設計の仕事をし、一か月二〇万四五五〇円の収入を得ていることなどを認めることができる。
(二) これらの事実によれば、原告は、本件事故のため、高校を一年留年し、一年浪人して、大学に進学したというべきであり、本件事故により就職時期が二年遅れたと認めることが相当である。
したがって、就職が遅れた期間に得られるはずであった収入が損害であるということができる。
そうすると、本来の大学卒業時の賃金センサス(平成七年男子労働者大卒二二歳年収額)三二〇万七三〇〇円に二年を乗じた六四一万四六〇〇円を損害と認めることができる。
6 逸失利益
(一) 前記5(一)の認定事実によれば、原告の逸失利益は、症状固定時の賃金センサス(平成七年男子労働者大卒二四歳年収額)三二〇万七三〇〇円に、労働能力喪失率六七パーセントを乗じ、就労可能年数四三年のホフマン係数(一八・三九五。ただし、本件事故時から労働能力喪失期間の終期までの係数から、本件事故時から就労可能期間の始期までの係数を控除した係数。)を乗じた三九五二万八八四九円であると認めることが相当である。
(二) これに対し、被告は、変形障害は労働能力への顕著な影響が考えがたいとか、機能障害は将来若干の回復が予想されると主張する。
しかし、被告の主張を裏付ける証拠がないし、原告の供述を検討しても、原告が努力して仕事をしているとは認められるが、労働能力への影響がないとか、将来回復が予想されるなどと認めることはできない。
したがって、前記認定のとおり、労働能力喪失率六七パーセントが四三年間継続すると解して差し支えないと思われる。
7 入通院慰謝料
原告は、二八一日間入院し、平成二年五月一七日から平成七年三月二二日まで(実通院日数一八五日)通院したと認められる。
そうすると、入通院慰謝料は、三〇〇万円が相当である。
8 後遺障害慰謝料
原告は、自算会から、前記等級表六級に該当する旨の認定を受けた。
そうすると、後遺障害慰謝料は、九五〇万円が相当である。
三 結論
したがって、被告は、原告に対し、損害額の合計六七九七万九七七二円のうち、過失相殺後の三五パーセントに相当する二三七九万二九二〇円から、既払分二〇二七万五九四三円を控除した三五一万六九七七円及び弁護士費用三〇万円を加えた三八一万六九七七円を支払う義務がある。
(裁判官 齋藤清文)